他人の人生に魅力を感じてしまう、現代人へ。平野啓一郎「ある男」
ブログのタイトルに「本とほんとの旅」とあるのに、まったく本について触れてこなかったので、第一弾。平野啓一郎「ある男」である。
簡単なあらすじ(ネタバレまではいきません)
弁護士 城戸のもとに新たに入った依頼は、奇妙なものであった。
依頼は城戸が以前も離婚調停を担当したことのある女性Aからのものであった。Aは離婚後、宮崎にある田舎に帰り、実家の文具屋を手伝い、のんびりと暮らしていた。
そこに、地元では見ない顔である谷口と名乗る男が文具を買いに現れ、地元の林業会社に就職したというその男に、Aは次第に惹かれていく。
離婚や息子の病死、父親の急逝など傷心しきっていたAは谷口との結婚を選び、新たに子どもを授かり、幸せな家庭をきづいた。しかし、3年がたったある日、林業に従事する谷口は木の下敷きとなり、死んでしまう。
悲しみに暮れる、Aは谷口が絶縁したと言っていた、親族に連絡をとり、最後の姿を見てもらおうと、宮崎まで呼ぶ。
しかし、谷口の兄は、死んだ男が自分の弟ではないと、言うのだ!
城戸への依頼は、その谷口と名乗っていた男Xの正体を明らかにしてほしいとのことであった。
書評
わくわくが止まらない。
誰がなんのために、身分を偽って、他人になりきり、Aと結婚したのか。
これが明らかになっていく過程はすごくワクワクする。
他人になりきって詐欺をしているのかと思いきや、ただ結婚しているだけなのだ。
Xという男にはどのような背景があって、果たしてどんな悪事をしてきたのか。
逆に谷口という男はどうして、Xに身分をそっくりそのまま渡してしまったのか。
身分の交換なんてそんなに簡単にできるの?
などなど
普段平穏に暮らしている私には、現実ばなれしていてとても引き込まれた。
他人の人生を生きることに魅力を感じる現代人
ただ、そのスリリングな内容を楽しんでもいいのだが、この本はもっとふかいところにも触れている。(勝手な私の解釈)
少しネタバレをしてしまうと、
Xという男は、父親が殺人犯であり、子供である自分は何の罪を犯してもいないのに、普通に生きることができないことに嫌気がさした。そして身分を交換した、ということであった。
調査をしている、主人公 城戸は、自信が韓国人の血を引いている、日系2世であることから、Xという男の人生に共感する。
自分の責任のない、どうしようもない運命に対して、もどかしさを感じ、他人の人生を生きることの魅力を感じ始めたのであった。
一人の子供はいるが、最近、妻ともうまくいっていない、城戸にとってさまざまなしがらみをたって、脱皮し、人と人生を交換することができたら、すべてリセットすることができるのではないか、と感じていたのだ。。
これは現代のわれわれにも言えることではないか。
SNSの発達によって、インスタやTwitterで自分の幸福を発信し、それを見て嫉妬している人も多いのではないか。
「自分がこんなに仕事ばっかりしているのに、あの子はこんなに楽しそうに遊んでいる。。わたしの人生って。。。。」
自分の人生に常に物足りなさを感じてしまう。そんな負の連鎖を抱えてしまっている人はおおいと思う。自分は幸せではないと感じてしまうのだ。
主人公 城戸もそうであった。調査の傍らで出会った女性に魅力を見出してしまい、今の妻ではなくこの人と付き合った方が幸せなのではないかと錯覚してしまう。
(危うく、浮気するところもドキドキする)
今の幸せに目を向けよう
しかし、主人公 城戸は気づく。
子どもがいて、妻と家族三人で、川の字でねて、週末あそびに行き、笑い合う。
この日常は十分に幸せではないか!
主人公 城戸がこれに気付いたのは、Xという男が壮絶な人生を送っていたからであるが、私たちもこれに気付かなければならない。
いかに今の生活が十分に幸せで、満ちているのか。
SNSなどを見て他人の生活を見るのは良いが、相対的に自分の生活を見てしまうことは、さみしいことであると思う。
家族、恋人、友達、みじかにいて支えてくれる人。
大切にしなくちゃねーー。
芸能人の浮気、不倫ニュースは多い
これを私たちがどう見て、どのように考えるか、大切だよね。
常にメディアは面白可笑しく、誘導しようとするから。
アンジャッシュ渡部 さんにも読んでほしい本でした。。